2013年10月18日 (金) 13:21
10月7日(日)前日大阪で行われた大学の同窓会翌日、早朝の新幹線い飛び乗ってある勉強会に出席しました。
そこで知り合った卒後5年目の先生から相談を受けました。
重度の認知症の44歳の女性をご主人とお嬢さんが連れてきました。歯磨きもうまくできず、虫歯をたくさん作っています。歯周病もまだ軽度ですがこのまま放置すればどんどん進んで行く状態です。
数件の歯科医院を回ったのですが、どの医院でも前向きに治療してくれず、行くと歯石をとるだけなので何とかして欲しいというのです。
ご主人の話ではこのままいくとますますひどくなるので、今のうちに歯を抜いて入れ歯にした方が楽じゃないか?というのです。
どうやらどこかの歯科でそんな話が出たらしいのです。
相談者の若い先生は自分の診断としてはきちんと治療をすれば抜くことはないと考えているそうですが、家族の希望が「抜歯、入れ歯」なので悩んでいるとのこと。
私は、この話を聴いて相談者の先生に言いました「このまま、ご主人のいうように抜歯したら、先生は後悔しませんか?」
すると、「今でも考えると寝られなくなるんです。今度来たら抜くことになっていて・・・。」というのです。
私は思いました。「自分の奥さんの歯を抜いてほしいと思うだろうか?お嬢さんも自分の母親が入れ歯になるのを平気でいるはずがない。」と・・・。
私は、相談者の先生に言いました。「ご主人とお嬢さんにもう一度お話を伺って下さい。歯を抜くことを希望されるのは何か理由があるはずです。」
認知症の患者さんのご家族の戸惑いや介護の大変さは当院に通院する患者さんでの経験上よくわかります。
「これ以上負担が増えるくらいなら抜いて入れ歯にしてもらった方がどれだけ楽か?」
このように考えられるのも無理もありません。
そのくらい認知症の家族を抱える方々は大変なんです。
そんな話をして、相談者の先生は次回の来院時に患者さんとお話をしてくださいました。
やはり、ご家族は介護の大変さから歯科医の漏らした「抜いて入れ歯にした方が楽」という言葉に諦めから流され、不本意ながら抜いて入れ歯にすることを希望されていたことがわかり、本意は「抜きたくないし、入れ歯にもしたくない」とおっしゃったそうです。
幸い、お口の中の状態はそれほどひどい状態ではなく、通常の治療とご家族のご協力が得られれば抜かずに自分の歯でかみ続ける音ができる状態だそうで、ご家族も本当に喜んでいるとのことでした。
相談者の先生からすぐに連絡を頂き私もホッとしました。
患者さんの隠れた思いを聴くことはできれば、結果は大きく違ってきます。
患者さんにとっても、ご家族にとっても、そして担当した相談者の先生にとっても、ほんの少しのコミュニケーションの違いで、結果は天と地ほど違たことでしょう。
これが、患者さんを主役とした、歯科医療におけるコミュニケーション:デンタルインタビューの真髄です。
この先生は、この患者さんを歯科難民にせず、ご家族も救ったのです。
若くして知った歯科医療の技術以外のことの重要性。
この先生はきっと忘れないでくれると思います。
こんな先生が少しでも増えることを願っています。
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