患者さんから学んだ、
歯科医療の本質
はじめて彼女が来院されたのは、22歳の時でした。
「前歯の差し歯が取れてしまって…」
それが来院のきっかけでした。
お話を聞いていく中で、彼女は少し申し訳なさそうにこう言いました。
「歯医者さん、ずっと苦手だったんです。」
痛い。
怖い。
怒られる。
話を聞いてもらえない。
だから、歯に問題が起きても、
本当に困った時だけ通う。
治ると、また足が遠のく。
その繰り返しだったそうです。
決して、歯を大切にしていなかったわけではありません。
むしろ、人一倍気にしていた。
裕福な家庭で育ち、
身なりも美しく整え、
周囲から見れば何不自由なく見える女性でした。
本当は、思いきり笑いたい。
でも、自分の口元に自信が持てない。
そんな長年のコンプレックスを、
心の奥に抱えていたのです。
私はまず、歯を治す前に、
彼女の話を聞くことから始めました。
なぜ歯医者が嫌だったのか。
何が怖かったのか。
本当はどうなりたかったのか。
時間をかけて、
少しずつ信頼関係を築いていきました。
あれから30年以上。
彼女は今も定期的に通院されています。
けれど、この30年で、
大きな治療はほとんどありません。
必要だったのは、
“壊れたら治す”ことではなく、
安心して通い続けられる環境と、
人生に寄り添うメンテナンスでした。
そして、ある時。
以前の写真を見返した彼女が、
笑いながらこう言われました。
「昔の私、ずっと口を隠して笑っていたんですね。」
その時の笑顔は、
初めて会った22歳の頃とは、
まるで別人のようでした。
無理につくる笑顔ではない。
心から安心している人の、
自然な笑顔でした。
その後、彼女は素敵な結婚をされ、
お子さんにも恵まれました。
今では、
そのお子さんも矯正治療で通院されています。
私はこの患者さんから、
歯科医療の本当の価値を教えて頂きました。
歯科医療は、
ただ歯を治すだけではない。
その人が、
歯科医療を通して、こころから笑えるようになること。
その笑顔が、
家族へ、未来へ、
つながっていくこと。
「患者さんの人生に寄り添う歯科医療」
言葉にするのは簡単です。
けれど、本当に実践するには、
高度な技術だけでは足りません。
長い時間を共に歩み、
その方の人生を支援し続ける覚悟が必要なのだと思います。
この患者さんとの30年は、
私の
歯科医療の原点そのものなのです。












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